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「日報」を名乗りながら、更新はときどき。
by enikaita
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大島渚監督作品『日本の夜と霧』
なんか不思議な映画。
60年安保闘争のさなかに出会った男女の結婚式会場に、かつての同志たち、そして招待してない奴まで乱入。仲間の自殺の真相をめぐって、「党の方針」にしたがいながら運動を中枢でひっぱった男たちと、「党の方針」に反発していた男たちによって暴露、告発、告白、議論が行われる。

ちなみに「党」とは日本共産党のことだ。ここでいう「党の方針」とはどういうものなのかをかいつまんでいうと、安保反対運動をさらに拡げていくために、先鋭性や難解さを避けて歌やフォークダンスなんかを取り入れて、親しみやすい運動にしていくことだ。

この作品の映像的な特徴は極端な長回しにある。セリフをトチろうがおかまいなしでカメラは回り続ける。俳優は膨大なせりふをその場に応じて処理するのに手一杯で、中にはほとんど棒読みの人もいる。作品中の議論はあまり白熱せずに論理だけが上滑りしていく。しかし議論が上滑りしているからこそ、奇妙なリアリティが表出する。俳優自身の言葉として発語されないが故に、理屈っぽいセリフは異様なまでの緊張感を生み出した。大島渚のカメラはその緊張を逃さない。ヘタクソな演技といえばそれまでのことだが。おそらく実際、運動の内部でこのような上滑りした議論が行われていたのではないだろうか。

「ヒヨってる」という言葉が連発する。今でこそこれが「日和見主義」の事だということは知っているが、この言葉をはじめてきいた時、「ヒヨってる」とは「ヒヨコのように親の後ろをついてまわる」ことだと思った。まあ、実際の意味では大差ないのだから、ヒヨコでもいいのだが、ヒヨってるの「ヒヨ」がヒヨコのことだとしたら、むしろ「ヒナってる」のほうが正しかろう、と勝手に疑問に思っていた。
現在においては完全な死語であり、現在この言葉を日常的に発する人はほとんどいないだろう。サラッと「君、ヒヨってるね」なんていわれた日には、相当にひいてしまうにちがいない。


出演者に超若い津川雅彦、小山明子、渡辺文雄らが出演。
他の出演者やスタッフにも、新劇とアングラ・小劇場の結節点となった早稲田・自由舞台や東大演劇研究会などの出身者が多く、過渡期の演劇を切り取ったものといえるし、資料的価値も高い。党の方針に従う〈新劇〉とそれに反発する〈新劇分派〉、そういう党派闘争からの逃亡をはかる〈アングラ・小劇場〉へのながれがかいま見えるような気もする。
by enikaita | 2006-07-12 17:07 | 映画
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