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by enikaita
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田中泯の「野外移動公演術」
『「生理歩測」地図─01─カラダカラダノダカラダ。』3月11日、出演=田中泯/戸山公園

しだいに暖かさが増してきた3月の昼下がり、東京都区内最高峰である新宿区戸山公園・箱根山近辺で舞踏家・田中泯の独舞が催された。
この公演に客席は存在しない。ダンサーは観客をひきつれながら移動していく。いきなりこれに出くわしたら異様な光景だろう。200人が一人の男の一部始終を目撃しようと場所を取り合っているのである。たまたま公園で遊んでいた小学生は「オヤジが寝転んでるだけじゃん」ともらした。たしかにそのとおり。バンドの演奏のあと、公園内の草むらにある水場からスタート。観客は田中泯を取り囲む。彼は春の風にふかれながら新宿の空気に溶けて、公園生活者がいつもするように、居眠りをしているかのようであった。実際にその水場は公園生活者も使っていた。ほんの数時間前にはこの場所で上半身裸になってヒゲを剃っている男を目撃した。

客席のない、観客が自由に移動していい芝居やダンスでよくあるのは、上演場所が同じ時間に点在しているというパターンだ。観客は散開しながら、島のように点在する地点を移動する。しかし今回はバンドと共演とはいえ、独舞なのでそういうことはできない。そこで「どう観客を移動させるのか」というところが気になってきた。

田中泯が移動を開始した。
彼は観客のスキマを見つけ、そこから移動していくのではなかった。比較的観客の多いところに自ら飛び込んだ。田中泯の移動する方向が劇場となり、客はその場所から一歩退く。退いてもまた追いかける。ついに一人の客を捕まえて一緒に寝転ぶ。それから這うようにして次第に観客のなかに消えていった。そうすると見えなくなった人が移動を始める。
観客に積極的に関わっていくことで、移動を促すのだ。沈黙のうちに移動を始める200人の観客。傍目から観るとハーメルンの笛吹き男である。

一人、絶妙の距離で田中泯をみつめる子供の姿が。いくら好奇心があるだろうとはいえ、他の観客よりはるかに至近である。公園遊具のすべり台と戯れる田中泯の後ろについて、同じ遊具にのぼる。あまりに距離の取り方がうますぎる。好き勝手やっているようでいて、ちゃんと踊りも観ていて、決定的な邪魔はしない。この子供、ぜったいにタダモノではない。最後にはついに田中泯につかまり、落ち葉の中をゴロゴロと転がされた。どうもやはりタダモノではなく「知り合い」らしかった。公園で遊んでいた他の子供は、田中泯が近づいたら逃げてしまった。これが普通の反応だろう。

それにしても、田中泯は踊っているだけではなく実は「踊らせている」。積極的に観客に関わっていくことで、沈黙のうちに200人の観客を「踊らせて」いるのではないか。そんな気がしてしまった。その200人の移動をたまたま目撃した戸山公園周辺の人が本当の観客なのかもしれない。
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by enikaita | 2006-03-13 15:46 | 舞台芸術
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